2018年ノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶さんの研究と叫ばれる基礎研究の場の減少

スポンサーリンク
科学関係の記事

こんにちは!悩める理系男子です!

先日、ノーベル医学・生理学賞の発表があり、京都大学の本庶佑(ほんじょたすく)さんが受賞されました。

今回は、この賞が一体どういったものなのか、また、ノーベル賞受賞者が問題提起する基礎研究の場の減少について紹介します。

なぜノーベル医学・生理学賞を受賞したのか

一般に、ガン治療には4つ種類があり、薬物療法、手術療法、放射線療法の三つは外部的な作用により、ガンを排除する方法です。しかし、免疫療法(注:よくネット等で出てくる自然療法は全く異なるもの。)は、患者自らの免疫を利用してガンを排除します。

本庶さんが1992年に発見されたPD-1タンパク質は、のちに、免疫に重要なT細胞が持つPD-1タンパク質とガン細胞のPDL-1タンパク質が結合することで、免疫細胞の攻撃から逃れることの発見へとつながりました。
この成果はのちの免疫療法の元となり、PD-1とPDL-1の結合を阻害することによって、免疫を利用してガン細胞を排除する、オプジーボなどの治療薬が開発されました。

この成果の大変興味深い点は、患者の免疫を利用することにより、負担を軽減しながら抗ガン治療が可能であること。また、これまでの治療では、正常な細胞へも負担があったのが、免疫療法では薬が直接的にガン細胞を排除する訳ではないため、その負担が軽減されることにあります。

↑免疫療法のメカニズム

つまり、今回、本庶さんは、ガン治療の新たな治療法の確立に繋がる発見をした、その功績が讃えられ、ノーベル医学・生理学賞が与えられたということになります。

1992年に発表された論文

せっかくなので、本庶さんがPD-1を発見した論文を少し紹介したいと思います。(フリーアクセスなので誰でも読むことができます→Induced expression of PD‐1, a novel member of the immunoglobulin gene superfamily, upon programmed cell death. Ishida et al., 1992 EMBO journal 11 11: 3887-3895

この論文によると、マウスのハイブリドーマ(複数の細胞が融合してできた細胞)とインターロイキン3要求性細胞株Lyd9のプログラム細胞死において、PD-1が発現することを発見しました。
さらに、マウスの胸腺にT細胞の増殖刺激因子抗CD3抗体を注入することで生じる胸腺細胞死においても、PD-1が発現したことから、PD-1の遺伝子の活性化がプログラム細胞死において、生じる現象であることを突き止めました。

つまり、今回のノーベル医学・生理学賞で讃えられた免疫療法の仕組みはまだ発見されておらず、PD-1は細胞死と関係がある因子と考えられていたんですね。

ここから、PD-1とPDL-1の関係に至るなんて、とても興味深いです。研究という感じがしますね。

のちに、PD-1は細胞死とは関係ないことがわかるのですが、その一連の流れに関しては、産経ニュースに載ってます。(「何だこいつは」偶然の発見 好奇心と執念で実用化 本庶佑さんノーベル賞

毎年叫ばれる基礎研究の場の減少

ノーベル賞受賞者の会見で近年、毎回のように話題に上がるのが、基礎研究のための環境がなくなってきていることです。

歴代ノーベル賞受賞者が口々に語る危機感「日本に基礎研究を伸び伸びやらせる環境なくなった」私見クローズアップ現代+)でも取り上げられている通り、すぐに結果が出る応用研究に注力され、時間のかかる基礎研究が軽視にされていることが問題視されています。

また、科学雑誌NatureでもWhat price will science pay for austerity?(財政緊縮の代価に科学は何を払うのか?)Nature543 s10-15, 2017, Ishiko Fuyunoという記事が発行されました。

この記事によると、
・GDP比で見ると研究予算は韓国・イスラエルを除いて最も高い。しかし、2001年から2017年までの科学技術予算は横這いである。
・政府は大学への運営交付金を2004年から2014年まで毎年1%ずつ削った。その結果、三割以上の国立大で、リタイヤ後に空いた任期付職を埋めることができず、新しいスタッフを雇うことを止めた。
・2017年には、選択と集中と呼ばれる投資により、86の国立大学中5つの研究機関に、競争的資金の約半分の1000億円以上が投資された。これらは、国際的な競争力のある研究者を育てているが、一部の限られた人のみ恩恵を受け、若手研究者の待遇改善には、政府の支援が足りない。
などが挙げられています。

GDP比は高いのにも関わらず、科学技術予算が横這いであることは、日本の経済状況的に教育に回すお金がないことを示しているのではないかとも考えられます。

ちなみに、日本の研究.comで公開されている本庶佑さんの研究予算を見てみるとめちゃくちゃ配分されていることがわかります。(https://research-er.jp/researchers/view/123931
すごい。さすが医学。
これを見ると、選択と集中は成功したかのように見えますが、先ほども述べた通り、若手研究者や他の研究機関にその分回っていないため教育機関全体としての力は弱まり、20年後、30年後にはノーベル賞受賞者は本当にいなくなってしまうかもしれませんね。

おわりに

今回は、ノーベル医学・生理学賞を受賞された本庶佑さんの研究と、叫ばれている基礎研究の現状に関して記事にしました。
基礎研究が〜って言ってるけど、実際どうなのよって思う人もいると思いますが、現状は厳しいですね。
まさか、競争的資金の半分が5つの機関で使われてるとは、知りませんでした。

本庶さんの研究も、はじめはPD-1がガン治療に使われるとは想像もできなかったのではないかなと思います。
科学は現在のためでなく、未来のためにある。1992年に見つかったものが、20年後に薬として利用され、まさに科学のあり方を示した、とても良い事例だったのではないでしょうか。




コメント

  1. […] 3位 2018年ノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶さんの研究と叫ばれる基礎研究の場の減少 […]

タイトルとURLをコピーしました