僕の人生に影響を与えた論文の紹介

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科学関係の記事

こんにちは、悩める理系男子です!
今週は山に登ってたので、あまりブログには触れられなかったですね。
9月は発表だらけでめちゃくちゃ忙しいです。10月からは修士論文が忙しくなるんですが…
できれば、研究室の生活についても、そのうち紹介したいと思います。

今回は、僕の人生に大きな影響を与えた論文を紹介します!
やっと、理系男子っぽい、科学論文の記事を書きます(笑)

過去の記事(大学院博士課程への進学と親の反応 Part2)でもちらっとふれたんですが、一つの論文が僕の人生に大きな影響を与えました。
僕の編入学の際の大学選びの決め手となったと言っても過言ではないですね。

それが
Chao MW et al., 2012,α-Tomatine-Mediated Anti-Cancer Activity In Vitro and In Vivo through Cell Cycle- and Caspase-Independent PathwaysPLOS One 7(9): e44093 (https://doi.org/10.1371/journal.pone.0044093)
です!
タイトルを和訳すると、「αトマチンの人工条件下及び生体における、細胞周期及びカスパーゼ非依存的経路による抗腫瘍作用」です。

当時19歳だった僕は、これを見て、なんかトマトすげぇぇぇーーー!!!って思い、トマトの研究がしたいと思いました。安直です。あと、トマト好きだし。

このタイトルの時点で、わからない単語がいくつもあるとは思いますが、順に説明していきます。

・αトマチン:トマトが合成するアルカロイド配糖体の一つです。アルカロイド配糖体は、有名なものだとジャガイモのソラニンが有名ですね。
・細胞周期:細胞分裂の際には、細胞が膨れ、DNAの複製、分裂したのちに、細胞が分裂し、2つの細胞になるという周期があります。これのことを差します。
・カスパーゼ:アポトーシス(細胞死)のために、細胞のタンパク質を切断していく酵素です。
つまり、タイトルから、「αトマチンがガン細胞における細胞周期への影響とカスパーゼによる細胞死の誘導以外の方法でガンを抑制している」ということがわかります。

それでは、内容に入っていきたいと思います!(全部紹介すると大変なので抜粋して紹介します)

αトマチンはガン細胞の成長を抑制する??

図1. ヒト白血病細胞ラインにおけるαトマチン誘導性アポトーシス (A) αトマチンの構造式(https://doi.org/10.1371/journal.pone.0044093.g001
こちらはαトマチンの構造です。右側の6個、六角形と五角形が並んでる一つにNを含んでいる六角形がありますね。なので、これらがアルカロイドで、その集合体の左に4つの六角形があります。この部分が糖になり、糖アルカロイド、アルカロイド配糖体などと呼びます。
これまでの研究で、αトマチンは未成熟の果実に多く含まれ、結腸ガン細胞や肝臓ガン細胞、肺ガン細胞に効果を示すことがわかっていたので、今回は、白血病細胞ライン(HL60とK562)で試験しました

図1. ヒト白血病細胞ラインにおけるαトマチン誘導性アポトーシス (B) 細胞にαトマチンを24時間処理または処理なしで細胞生存率をMTTアッセイにより測定した。* P<0.05, ** P<0.01, and *** P<0.001はコントロールと比較し、表した。
なるほどαトマチンを処理すると24時間後に、白血病細胞の数が有意に(統計処理をして明らかに差が認められた)減少しました!すごい!

Figure 2. HL60とK562細胞株におけるαトマチン処理の細胞周期への影響 (A) 上のレーンはHL60細胞株を示し、αトマチン(10 µM)をそれぞれの時間に処理した。細胞周期はFACSscanフローサイトメトリー分析により評価した。下のレーンはHL60細胞株にpaclitaxel(10µM)を処理したもので、ポジティブコントロール(必ず効果が現れる指標)である。(B) K562細胞株も同様にαトマチン(10 µM)をそれぞれの時間に処理した。それぞれ最低で三回反復実験を行った。
タイトルにもあった細胞周期に関して、それぞれの白血病細胞ラインでDNAの量から正常に細胞分裂が起きるのか調べました。αトマチンを処理した時間における、DNA量に対する細胞の数を見ています。例えば、HL60をみるとDNA量が400のときに細胞数は約200個ありますが、他の DNA量の時は50個前後にありますね。この割合が処理後にも変わらないので、それぞれの細胞が一定のペースで分裂していっていると考えられます。なので、αトマチンは細胞周期に影響しないと言えます。
ちなみにPeclitaxelは抗がん剤で、細胞周期を乱して分裂が正常に行われないようにする作用があるため、図からもDNA量あたりの細胞数が処理後に一定に増加してないことがわかりますね。
すると、どちらの白血病細胞ラインにおいても、αトマチンの処理時間に関わらず、細胞数とDNA量に影響しないことがわかりました。
Figure 3. αトマチン誘導性細胞死はK562及びHL60株のどちらもカスパーゼ活性非依存的である。 (A) HL60株にαトマチン (5 µM) または paclitaxel (3 µM)を24時間処理し、カスパーゼ-3, -6, -7, -8, -9の活性を測定した。Paclitaxel (3 µM)はポジティブコントロールとした。 (B) HL60に100 µM z-VAD-fmkを30分あらかじめ処理し、その後αトマチンを (5 µM) 24時間処理した。 (C, D) K562株もAと同様。
では、アポトーシスに必要なカスパーゼは働いてるか、調べた結果です。
すると、paclitaxelはカスパーゼを活性化させたけど、αトマチンは活性化させてませんと筆者は言っています。ぶっちゃけ、僕はこのデータからはそう思わないけど。アクチンという細胞のどこでも働いてるタンパクのバンド(黒い線)と比べると太いからpaclitaxelで活性化してるならαトマチンでも活性化してるでしょって思うんです。でも、この方法だと量がわからないので比べられないんですね。残念。
その代わり、カスパーゼの活性を邪魔する薬剤z-VAD-fmkをくわえた時に、αトマチンを作用すると細胞の数がどうなるかを調べたのがBとDです。
これを見ると、z-VAD-fmk加えても、αトマチンを処理すると細胞数が減少するから、カスパーゼの活性を上げて細胞を殺してるわけではないです!と言ってるのわかりますね。
個人的には、paclitaxelがカスパーゼを活性化させるなら、z-VAD-fmkを加えた時に細胞数はどうなるか見せてほしかったです。

白血病を発症するモデルマウスでαトマチンの効果を調べてみた

Figure 7. αトマチンは顕著にHL60の注入移植により生じた腫瘍を抑制し、AIF、suvivin発現に影響した。腫瘍サイズが100 mm3に達したのち、αトマチン5 mg/kg (q2d, i.p.) を注入した。(A) αトマチンの腫瘍サイズ及び体重に及ぼす影響。腫瘍サイズと体重の成長曲線は5匹の平均をとった。 (B) 腫瘍はその後、免疫染色を行った。上のレーン(a.c.e.g and i)はコントロール(無処理区)で、下のレーン (b.d.f.h and j)はαトマチン (5 mg/kg)処理区。 a,b: ヘマトキシリン・エオシン染色(核や細胞質の染色)、 c,d,e and fはAIF (brown)の染色、g,h,i and jはsurvivin (brown)の染。. c,d,g and hは200倍拡大、; a,b,e,f and jは1000倍拡大。

マウスに処理すると、腫瘍のサイズはめちゃくちゃ小さくなったけど、体重はそんな減ってないよ!ってわかります。(細胞試験の時のIC50半数阻害濃度が1.5 μMとかで、αトマチンの分子量が約1030g/molだから、1.5mg/L。Lはkgと概算しちゃうと、5mg/kgって、約5μMです。絶対白血病細胞殺すマンって感じですね)
腫瘍の切片を観察すると、αトマチン処理だと、アポトーシスに必要なAIFが増えて、ガン細胞で出てるSurvivinが減少してます!って言ってるんですけど、まあ、それは結果論だしなあという感じです。

まとめ

今回の論文で、αトマチンが白血病細胞に対して効果を示し、さらに白血病発症モデルマウスに投与すると腫瘍サイズが減少することがわかりました。
また、αトマチンは細胞周期やカスパーゼに作用せず、ミトコンドリアに作用して白血病細胞数の減少や腫瘍の縮小に関わると論文で述べられています
これは新しい抗ガン剤の候補として、今後の研究が待ち望まれます。

今回、データの数が多いので、恣意的にfigureを選んで論文を紹介しましたが、論文中では、αトマチンはおそらくミトコンドリアに作用しているのだろうと述べています。え…ミトコンドリアに作用するなら、正常な細胞にも作用するんじゃないの?…って思うんですが、一応糖アルカロイドだし毒性はあるんですよね…

これを見ると、あれれ〜〜〜??αトマチンを3μM処理すると、正常な細胞でも白血病細胞でも生存率が40%以下だぞ〜〜〜??って思っちゃうんですけど、抗がん剤ってやっぱりそういうもんなのかな…
あと、αトマチンを処理するとAIF出たり、survivin抑えるから白血病細胞の減少に効いてるぜ!って言ってるんですけど、ミトコンドリアに影響したら、そのままアポトーシスに入るからAIF出るのでは?って思うんですけどどうなんだろう…
ちょっとこればかりは知識が足りなくてわからないです…

こんな感じで、今読み返すといろいろ突っ込みどころがあるというか、昔は不思議に思わなかったところにも疑問が出てきたりして面白いですね。
成長したということにしましょう。

ではでは。

トマトの画像はfood.fotoからダウンロードしました。




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